ヴァンガード (HMS Vanguard, 23)

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2012/02/11(土)
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ヴァンガード (HMS Vanguard, 23) は、イギリス海軍最後の超弩級戦艦で同型艦はない。

建造の背景

第二次世界大戦前に空母へ改造された大型軽巡洋艦「グローリアス級」が搭載していた「Mark 1 38.1cm(42口径)連装砲塔」は同型の砲を搭載する戦艦への予備としてグローリアス級2隻分計4基が全て倉庫に保管されていた。また、未使用の38.1cm砲の砲身もまた充分な在庫数が倉庫にあった。

そこで、その砲塔と砲身を利用して新たな戦艦1隻を建造する案が1941年の戦時建艦計画で出された。折しも第二次大戦の勃発により、16インチ砲9門を持つ新造戦艦「ライオン級」の建造も中止となり、建造資材と機関部品などが宙に浮いた存在となっていた事からチャーチル首相の強力な後押しもあって1941年10月から建造が開始されたのである。

設計

本艦は装甲艦ウォーリアの流れを汲む英国戦艦の集大成とも言うべき艦となる筈であったが、実際は戦時中という状況下で、キングジョージV世級とライオン級の設計に手を加えた戦時急造艦のイメージが覆せない艦となった。しかし、イギリス新戦艦で問題となっていた不具合や欠点を解消すべく意欲的に現場からの改良要求を設計を取り入れた結果、イギリス戦艦史上の最良の戦艦と呼べるものになった。

艦体

本級の艦体構造は前級より踏襲される典型的な平甲板型船体である。前級と大きく異なる点は強く傾斜したクリッパー・バウ型艦首と顕著にシア(反り返り)傾斜が付けられた艦首甲板が外観上の特徴である。

元来、英国戦艦は主砲を艦首方向へ仰角零度で射撃可能とするために艦首のシアは他国が強くする傾向の中、極めて小さかった。イタリア海軍の新戦艦もシアは弱かったが、これは地勢的に地中海内で活動するのに凌波性は重要視されなかったためで、外洋海軍であるイギリス海軍とは運用条件が異なる。

しかし、高速艦である本艦は高速航行時の凌波性を高める為に艦首形状を他国と同様の様式を採用した。この改良により本艦の凌波性は外洋で目覚しく改善された。

その艦首甲板から38.1cm連装式の主砲塔が背負い式配置で2基、その背後に前級よりも大型化し"箱"に近い形状となった塔型艦橋が建ち、艦橋の両脇に対空機関砲の張り出しが片舷1箇所ずつ設けられていた。その頂上部には英国戦艦史上で最大級となる9.2m測距儀1基が設置された。その背後に一段分上がって副砲用測距儀1基が配置された。艦橋の上に軽量な三脚型の前部マストが立ち、そこに各種レーダーのアンテナが設置された。

艦橋の背後に2本煙突が立ち、煙突間は艦載艇置き場になっており、1番煙突の基部に付いたトラス構造のクレーンが片舷1基ずつ計2基で運用された。2番煙突と後部測距儀塔との間に簡素な三脚式の後部マストが立ち、そして後部甲板上に38.1cm連装式主砲塔が後向きに背負い式で2基が配置される。

副武装の13.3cm砲は連装砲塔に収められて艦載艇置き場を境に、前向きに背負い式に2基、後向きに背負い式に2基の片舷4基ずつ計8基を舷側配置した。舷側甲板上は13.3cm連装両用砲が占めているために、近接火器は前弩級戦艦のように上部構造物に配置せざるを得なくなり、対空機関砲のボフォース 4cm四連装機関砲は艦橋の壁面に設けられた張り出しに2基ずつ、2番煙突と後部測距儀塔の側面に片舷1基ずつの片舷4基で計8基が配置された。他にスペースの空所に機関砲を分散配置した。

艦尾構造は英国で建造された戦艦として初となる、垂直に切り落としたような艦尾形状のトランサム・スターン型を採用しているのが特徴で、これにより艦の全長を抑えられた。水線下にはスクリュープロペラに挟まれるように中心線上に1枚舵が配置されていた。

なお、艦体の建造工法はアメリカ・フランスの新戦艦で積極的に用いられた電気溶接接合ではなく、本艦はリベット接合を前級に引き続き用いており、電気溶接は非強度部材のみに限定していた。その訳は、戦時建造という事情が深く関わっており、溶接技術自体はイギリスには有ったのだが優秀な溶接工は潜水艦建造へと優先的に回され、隻数的に余裕のあった戦艦建造へのリソース配分では熟練工の多いリベット接続に頼らざるを得ない背景があった。

そのため、本艦の船体重量は設計時よりも増加し、皺寄せが船体強度に及んでしまった。また、行動海域を冬の北海から熱帯地方の植民地まで幅広く適応させるために設計段階から艦内空調の大幅な強化がされたが、その断熱材としてアスベストを船体各所に多用していた。

武装

主砲

本艦の評価を下げているのは、第一次世界大戦前に設計・開発された「1915年式 Mark 1 38.1cm(42口径)砲」を採用している為に、戦艦の基本である「前級よりも有力な攻撃力を持つ」を満たしていない事が挙げられる。既に英国海軍では超弩級戦艦「ネルソン級」で「40.6cm(45口径)砲」で38.1cm砲を超える火砲を開発する能力を持っており、条約に囚われない本艦には当然ながら40.6cm砲を搭載するのがセオリーではあるが、前述の通り既存の砲塔を流用して建造コストを下げる事と建造期間短縮を主目的としているために英国海軍では問題としなかった。

製造当時の能力は、重量871kgの主砲弾を最大仰角20度で射距離21,702mまで届かせる事ができ、射程13,600m台で舷側装甲305mmを抜く能力があったと記録に残っている。砲塔の俯仰能力は仰角20度・俯角3度で発射速度は毎分2発である。

同種の砲塔は後の近代化改装で射程距離と攻撃能力を向上させる改良が行われたが、本艦の主砲塔もこれらの実績を踏まえて改良を加え、砲塔旋回機構や給弾機構や弾薬庫形状を改良した型式名「Mark 1/N RP12」砲塔として更新された。改良後の性能は重量879kgの主砲弾を最大仰角30度で射距離33,380mまで届かせる事ができ、射程19,840m台で舷側装甲305mmを、射程29,720m以上の距離では甲板装甲152mmを抜く能力があったと記録に残っている。

俯仰能力は仰角30度・俯角4.5度で発射速度は毎分2発である。なお、本艦の砲塔は大仰角を取る為に前盾の上部と天蓋の前部を大きく切り欠き、間をキャンバスで覆っている。砲塔の俯仰角・旋回等の動力は水圧動力を用いていた。

装甲貫徹力は近距離ではネルソン級の40.6cm砲にやや劣るが、遠距離砲戦での水平装甲に対する打撃力はやや上回るだけの能力を持ち、前級であるキングジョージV世級の35.6cm砲に比べると全距離で装甲貫徹力は上回り、また砲弾重量は前者が721kgに対し本艦は879kgと一発当たりの打撃力は圧倒的に上回っており、斉射重量もキングジョージV世級と殆ど変わらない為、全く他国主力艦と戦えないと言う事も無く、搭載に当たって新型スーパー・ヘビー・シェル砲弾(戦争勃発等の理由により開発されず)運用能力と薬室拡大、前述の通り仰角の増大による長射程化(最大射程21,702m→33,380m。砲戦距離の短い欧州戦に限定するならば充分な性能である)といった諸改造も受けて第二次大戦時の戦闘にも耐えうる能力を持っていた。

実際問題として、仮想敵である独ビスマルク級との交戦では、遠距離において防御力で勝るヴァンガードが有利であるが、20,000m以内の中近距離では垂直装甲を容易く抜かれて大きな被害を受ける可能性が高く、より防御力・攻撃力に勝る米日仏伊新戦艦相手では優位に立つ事は難しいと言うのが英国と日本以外の最近の評価である。

副砲・対空装備等

ボフォース 4cm(56口径)機関砲(写真はアメリカ海軍航空母艦ホーネット(USS Hornet (CV-12))のもの))
副砲はキング・ジョージ5世級と同じく1940年に採用された「Mark I 13.3cm(50口径)両用砲」であるが、新型砲塔であった。この砲は発射速度は毎分9発、仰角は+70度/-5度、最大射程は仰角45度で射距離21,397 m、最大仰角で高度14,935 mで、カタログデータでは優れるが実際の所は砲の俯仰角速度・旋回速度が普通の平射用砲塔と大差なく、ドイツ空軍の急降下爆撃機への対処は困難だった。

砲弾装填は人力であったが、水上砲戦での威力を重視したため砲弾重量は36.3kgもあり(日米の12.7cm砲弾で約25~28kg、動力装填式のフランス13cm砲弾でも32kg)速射性を阻害していた。これは重量が40.8kgまでならば人力で速射が可能であると言う間違った見解に基づき、弾薬包形式(砲弾と装薬が一緒、通常は動力装填式に多い)にした為、人力での装填作業を継続困難にした。しかし、対水上砲として見れば速射能力は平射砲と比べて速く、有効な副砲と呼べるものである。

他に対空火器として英国軍艦に広く採用されている「1930年型 Mark8 ポムポム砲(pom-pom gun)」ではなく、スウェーデンのボフォース社製「4cm(56口径)機関砲」を採用している。この砲は重量0.89kgの機関砲弾を高度7,160m先まで飛ばす事が出来た。これを六連装砲架で10基、連装砲架で2基、単装砲架で9基計73門を装備した。

防御

本艦の装甲は水平甲板が149mmで垂直水線部装甲が355.6mmと同世代の列強戦艦に比べて装甲厚に優れ、水線部装甲は全長の57%に匹敵する140mを覆う重防御である。しかし、舷側装甲板の配置はフッドやネルソン級で採用した「傾斜装甲」から、時代に逆行して第一次大戦時まで用いられていた「垂直装甲」に回帰した前級のものをそのまま踏襲している。

イギリス海軍では、建造時における装甲板取り付け工事の複雑化を嫌ったと説明されているが、代償として避弾経始効果が得られないためにドイツ戦艦と同じく「装甲にかかる重量の割合に対し対弾防御効果が少ない」という欠点を抱えるに至った。

本艦においては無条約時代となったために基準排水量には余裕があり、防御重量にかけられるリソースも充分にあった筈である。しかし、舷側防御こそ356mm装甲を水線面から甲板上部までの広範囲に貼り、上端部を主水平装甲の端部と接続し、敵弾の侵入を防ぐという強固な防御型式を持っていたが、その水平防御は149mmと、35.6cm砲戦艦である前級の152mmとさほど変わらないもので、装甲厚の設定は日本海軍の「長門型」への防御力は疑問視されるレベルのものでしかない。

また、その防御様式もアメリカ・フランスのように主装甲板の背後に断片防御用装甲を持たない為、主装甲を貫通した砲弾や主装甲板の裏面が砕けて飛散した場合に、居住区や機関区を守るものがない為に二次被害が生じる可能性が高い防御として考えた場合に不十分なものであった。

また、近年の研究では、イギリス海軍は水中防御に関する考え方が旧く、効果的な水中防御を考えていなかったとされる。

第一次大戦後、各国で水中弾効果について研究が進められた結果、日本海軍の大和型、アメリカ海軍のサウスダコタ級、フランス海軍のダンケルク級以降の艦は水線防御装甲を水線下まで延長する工夫が見られたが、本艦では356mm装甲は水線下まで112mmまでテーパーして貼られるものの水密区画の上端で装甲は終わっており、そこから先は細分化された空層区画と液層区画を艦底部に二重底と組み合わせて対水雷防御とする構造となっており、強化された注・排水システムにより魚雷に対しての防御は最適とされているも、水中弾への対策は無きに等しく本艦の防御は「旧来のデータで作られた独逸新戦艦」と「欠陥を持つプリエーゼ式の伊改装戦艦・超弩級戦艦」を除けば十分な物ではない。

主機関

本艦の機関設計は前述通りライオン級のために製造されたものを流用した。機関構成はライオン級と同じくアドミラリティ式重油専焼三胴缶8基とパーソンズ式オール・ギヤードタービン4基4軸推進のままであるが、機関技術の発展によりボイラー温度を750度まで引き上げられた。また、本艦は重量軽減のために巡航タービンを廃し、後進用ギアを内蔵した複流型低圧タービンと高圧タービンを並列に配置した2胴構成となっている。

タービン軸接続されたスクリューは当初三枚翼であったが、公試中に激しい振動を起こしたために、再度ドック入りし試行錯誤の末、内側の2基のみ五枚翼へと交換して振動を抑えた。直径は全て4.5mである。機関配置は前級と同じくシフト配置を引き続き採用している。

その性能は、船体の大型化に伴う重量増加で排水量が2,000トン増加して通常ならば速力が低下する所であるが、本艦は公試で最大出力136,000hp・速力31.57ノットを発揮し、常備排水量状態で132,950hpで速力30ノットを出している。そのため実用最大出力は前級の110,000hpから20,000hp増加の130,000hpとなり、実用最大速力も前級の28ノットから29.5ノットにアップしている。また、巡航速度は前級の10ノットから12ノットへ増加したが、機関の底燃費率も向上し、燃料タンクの大型化もあって航続距離は7,000海里から6,660海里程度と、速力増加に伴う航続性能の低下は抑えられた。

補助機関

補助機関は当初はターボ発電機6基とディーゼル発電機2基の設計であったが、戦訓からターボ発電機は主機関が停止すると発電不能となるため、単独運転可能なディーゼル機関を増加し、それを分散配置することによって被害を局限化することが現場より求められ、設計が応えた結果として本艦は480kWターボ発電機4基と450kWディーゼル発電機4基の構成へと変更された。

各発電機4基を2基ずつ前後にシフト配置する事で被害の局限化を図った。主発電機は3,720kWを発電し、直流電源220Vを供給した。しかし、その発電量は連合国はおろか、列強新戦艦の中でも低い部類に入るもので不十分であった。そのため、揚錨機やクレーンの動力など日常で使用する多くの動力を蒸気機関に頼らずを得なかった。

評価

強力な対空兵装(機関砲の数は充実しているため、問題が指摘された13.3cm両用砲を補えると判断された。後にエンガノ岬沖海戦での航空戦艦伊勢型の戦訓から妥当な判断といえる)や英国戦艦中最速の速力(本艦だけはカタログデータどおりの速力が出せた)などは、他国戦艦と比較しても引けを取らない、立派なものであった。前級と比べて航洋性が優れており、米海軍との合同演習中、嵐に遭遇した当艦は米海軍のアイオワ級戦艦の半分程しか動揺せず、名実共にやっと他国欧州戦艦のレベルに追いついたと言えよう。

旧式主砲の採用や、列強国に比べれば、攻防面が劣りがちであると見られるものの、主砲、対空砲、装甲、速度などの総合能力では前級のキング・ジョージ5世級戦艦を上回り、「大叔母の歯を付けた新造戦艦」と揶揄もされるが、英海軍の歴代戦艦の中では最もトータルバランスが優れることから「英海軍史上最良の戦艦」という評価も受けている。

艦歴

建造はジョン・ブラウン社。海軍では1944年の完成を見込んでいたのだが、戦闘による損傷艦の修理や、熟練工員の不足などから建造は遅延し、ようやく竣工したのは、終戦後の1946年になった。

そのため戦闘に参加する機会も無く、英国海軍最後の戦艦は王室専用ヨット的な扱いを受け、長らく名目上の本国艦隊旗艦を勤めた後予備役に編入されて練習戦艦として生涯を閉じた。

なお、1960年公開の映画「ビスマルク号を撃沈せよ!」では戦艦ビスマルク役としても撮影に使用され、銀幕の中でかつての仮想敵の役として登場するという、数奇な巡り合わせとなった。

1960年除籍、解体。

性能諸元

排水量 基準:44,500トン
    常備:48,500トン
    満載:51,420トン
全長 249m
水線長 246.6m
全幅 32.8m
吃水 9.4~10.6m 
機関 海軍式三胴型重油専焼水管缶8基
    +パーソンズ式オール・ギヤードタービン4基4軸推進
最大出力 常用:130,000hp
       公試:132,950hp
最大速力 常用:29.75ノット
       公試:31.57ノット
航続距離 20ノット/9,000海里
燃料 重油:4,100トン
乗員 1,590名
兵装 Mark I 38.1cm(42口径)連装砲4基
    13.3cm(50口径)連装両用砲8基
    ボフォース4cm(56口径)機関砲73基
装甲 舷側:355.6mm(水線最厚部)
    112mm(水線艦首尾部)
    甲板:149mm(弾薬庫上面)
    124mm(機関区上面)
    62~124mm(艦首甲板)
    112mm(舵機室上面)
    主砲塔: 324mm(前盾)
    174mm(側盾)
    mm(後盾)
    152.4~174mm(天蓋)
    主砲バーベット部:330mm(最厚部)

さらに詳しく → ヴァンガード (HMS Vanguard, 23)




世界の戦艦完全ガイド1939~1945 (イカロス・ムック)世界の戦艦完全ガイド1939~1945 (イカロス・ムック)
(2010/02/12)
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